Dr.ホルモンとKent Dr.の内分泌講座

Dr.ホルモンの内分泌講座

大人に対する成長ホルモン治療

2006年4月より成人成長ホルモン分泌不全症に対する成長ホルモン補充療法が保険適応となりました。欧米ではこの治療が既に90年代の半ばから行われておりましたが、ようやく我が国でも公式に認められるようになりました。

一般的に、成長ホルモンというと、子供の成長を促すものと考えられがちです。確かに思春期をピークに成長ホルモンの分泌は加齢とともに減少して行きますが、最近、成長が止まった成人においても、成長ホルモンが生理的に大変重要な働きをしていることが分かってきました。

大人で成長ホルモンが長期に不足すると、典型的な例では疲れやすく、活気や活動性が乏しくなり、不安感、うつ傾向が生じ、何事も面倒になるといった精神症状(下表)が現れる他、血中のコレステロール値の上昇、体脂肪の増加、心血管系リスクの増大、骨密度の低下、脱毛、創傷が治りにくい、寒がりで風邪をひきやすく、それがなかなか治らない等の身体症状(下表)が出現します。

成人成長ホルモン欠損症の精神症状

成人成長ホルモン欠損症の精神症状

成人成長ホルモン欠損症の身体症状

成人成長ホルモン欠損症の身体症状

気力や持続力が低下し、うつ的にもなるため、他人からは"さぼり病"と見られがちです。しかし不足している分の成長ホルモンを毎日皮下に注射することによって、上記の症状が驚くほど改善することが少なくありません。不調を訴えて、病院を受診する回数や副腎皮質機能低下症のためのステロイドホルモンの服用量が減る患者さんもおります。

なお、大人で成長ホルモンが不足する原因は様々ですが、下垂体腫瘍とその手術後や、放射線照射後、下垂体近傍の腫瘍(頭蓋咽頭腫、胚細胞腫)、下垂体の肉芽腫、下垂体炎、Empty Sella、分娩時の大量出血による下垂体の壊死(シーハン症候群)、出生時の分娩異常などが主だったものです。

これらの診断は内分泌専門医によって、病歴、下垂体MRI、下垂体、甲状腺、副腎皮質、性腺機能検査等により下されます。成長ホルモンの治療を受ける為には成長ホルモンの欠乏を証明する必要があります。その為に、予め成長ホルモン分泌負荷試験を受け、成長ホルモンが明らかに不足し、また血中の成長促進因子(IGF-I)も異常に低値であるかどうかを明らかにしてもらいます。これらのデータが基準値をクリアすれば成長ホルモンの治療が保険等を用いて受けられますが、成長ホルモンには血糖を上げる作用や既に存在する腫瘍を大きくする作用があるため、糖尿病や悪性腫瘍を患っている患者さんには使用が認められておりません。成長ホルモンは子供の場合と異なり、ごく少量で済みますが、成長促進因子が正常値になる様に調節します。

下垂体の病気、特に腫瘍の殆どが良性です。一般的にはあまり馴染みのない病気かもしれませんが、気付かないだけで一般人口のなかで10%もあるとする病理学者もおります。何事も億劫でやる気がない、疲れやすい、気持ちが塞ぎやすい、風邪を引きやすい等の症状のある方には一度専門医による下垂体の検査をお薦めします。

羽二生先生が制作監修されました「成人成長ホルモン分泌不全症と成長ホルモン補充療法」がご覧になりたい方は下のページへどうぞ。

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